麻薬施用者免許を持つ医師であれば、必要に応じて患者さんに麻薬を処方する機会はあると思います。
市中病院に勤務されている先生には想像がつかないかもしれませんが、大学病院では、麻薬の調剤や管理も医師が自分でしなければなりませんでした。
今回は、大学病院のそのあたりの事情について、経験を基に書いていきます。
大学病院では麻薬の処方のみならず、調剤も自分でしなければならない
大学病院で勤務をしていた頃、病棟の患者さんで、鎮痛や鎮静のため、点滴の麻薬が必要になることがありました。
電子カルテ上でオーダーをして、指示を出して、それで終わりかと思ったら、看護師から
先生、薬ができたらお願いします
と言われました。
一瞬何のことかよく分かりませんでしたが、確認したところ、なんと、調剤も自分でしなければならないことが発覚しました。
市中病院にいた頃は、調剤は自分でする必要はありませんでしたので、そのことを最初に聞いた時は耳を疑いました。
科の麻薬の管理担当者に聞いて、自分で麻薬を調剤するまでの方法を教わります。
まず、麻薬庫があるフロアは自分の病棟のフロアとは違いましたので、そこまでわざわざ行かなければいけません。
麻薬庫に辿り着いたら、麻薬庫のロックは解除しなければならないのですが、それが教えられた方法でやっても開きません。
開け方を暗号化したようなものは教わったのですが、それではうまくいきません。その暗号が複数通りにも考えられて、全て試したり、そもそも番号入力以外のやり方が間違っているのかすら最初は分かりませんでした。
試行錯誤の末、初回は20分くらいかかってやっと開きました。
開いた後は、麻薬が入っている麻薬庫の鍵を開けて、必要な麻薬を取り出し、記録をつけて、一旦麻薬庫を閉じます。
そして、調剤が済んだら、数など間違いがないか確認の上、麻薬庫に閉じ、使用料等の記録をつけて、終わりです。
そして、調剤した麻薬を持って、またはるばる自分の病棟へ戻ります。
そして、看護師に渡して一回の作業がやっと完了です。
2回目以降慣れてきたとしても、移動も含めたら20-30分はかかる作業です。
それを麻薬を処方するたびにしなければなりません。
大学病院にいた中で最も面倒だった作業といっても過言ではありません。
休日の夜間にも調剤のためだけに病院に行かなければならなかった
しかも、これで終わりではありません。
点滴等で麻薬を投与している場合、残がなくなる少し前には新しい麻薬を準備してセットしておかなければなりません。
いつなくなるかは、当然ながらその時の流量と残によって決まります。
投与開始して間もないうちは、流速も低めでいくので、新たな調剤作業は数日に一回で済みますが、流速が上がってくると、1-2日に1回は調剤しなければならなくなります。
というわけで、なくなるのが休日であろうと、夜間であろうと、その少し前に調剤を自分でしなければなりません。
これは控えめに言って地獄でした。
そのため、土日の夜などに麻薬の調剤のためだけに病院に行ったことも何度もありました。
「こんなところは絶対辞める」
そう思いました。
でも、患者さんのためなので行くしかありません。
ここまで来ると、
「チームの研修医や当直に任せることはできないのか?」
とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、それができないのです。
まず、研修医に任せられないのか、という点についてですが、麻薬の取り扱いにおいて、ミスがあってはならないので、研修医が単独で調剤してはいけない決まりになっていました。
大学病院の研修医はガチガチに守られる傾向にあるので、その分、後期研修医以上の負担は大きくなります。
また、当直についても、麻薬の処方や調剤については、当直に任せず、担当医がやる、というルールになっていましたので、任せることはできません。
これについては、やむを得ないとも思いますが、担当医の負担は非常に大きくなります。
ちなみに、残がなくなる直前ではなく、もう少し前に作っておいて渡しておく、という選択肢もあることはあったのですが、
もし準備した薬剤を使用しなかった場合、そのことをちゃんと届け出ないといけないのですが、その手続きは非常に煩雑で、面倒なもののようでした。そのため、できるだけそれは避けたかったのです。
おわりに
私のいた大学病院では、麻薬の処方のみならず、調剤まで毎回医師が自分でしなければなりませんでした。
他の大学病院ではどうなのかまでは知りませんが、少なくとも私のいた大学ではそうでしたし、非常に負担感の大きいものでした。
大学ではこの麻薬の件に限らず、理不尽なこと、無駄なことで溢れかえっています。
むしろ、合理的だったり、シンプルなシステムを探す方が難しいような所です。
本記事をお読みの皆様の参考になりましたら幸いです。
大学病院の事情については、以下の記事でも解説しています。