入局を考えているんだけど、医局ってどんなところかわからないなぁ…
大学病院ってどうなんだろう?
そんな疑問をお持ちの先生のために、本記事では、
- 医局とはどんなところなのか?
- どういうシステムなのか?
- ぶっちゃけ、大変なのか?
- 入った方がいいのか?入らなくてもいいのか?
などの気になる点について、かつて医局に所属し、大学病院での臨床や研究生活を経験し、医局の表側から裏側まで、嫌というほど見てきた私が解説していきたいと思います。
そもそも医局とは?
そもそも医局とは何でしょうか。
厳密な定義はあるのかもしれませんが、それはひとまず置いておいて、ざっくりとは、
「大学の科ごとの、教授を頂点とした医師の組織」
という理解で問題ないかと思います。
また、医局の構成員である医師は医局員とも呼ばれます。
これら3つの柱について、順番にざっくりとご説明していきます
臨床
医局に所属する医師は、大学病院での臨床業務にあたります。
病棟業務や外来を行います。
大学病院における臨床について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
また、医局員は大学病院での診療以外に、週1-2コマほどバイトとして、外の病院へ外勤をしにいくケースが多いです。
外勤について詳しくは、以下の記事で書いています。
その他、大学病院以外には、医局の関連病院で勤務をすることもあります。
医局が、医局に所属している医師を関連病院へ派遣する、という形です。
研究
大学医局には研究室があり、その多くは基礎研究を行います。
病態の解明や新規治療標的の探索、などですね。
もちろん、臨床研究も行われます。
研究を担うのは主に大学院生以上の医局員です。
若手医局員の場合は、指導教員にアドバイスをもらいながら、研究を進めていくケースが多いでしょう。
研究は、教授が獲得してきた予算を使って進めていきます。
各医局員は割り振られた予算を使って研究活動をしていきます。
ですので、その予算の潤沢さによって、研究内容が大きく左右されることもあるでしょう。
その他、個人で外部から予算取ってくることも可能です。
「こういう研究をしたいので、予算を付けてください」という申請を外部の機関や製薬会社などに出し、その中で研究の重要性や必要性、社会に与えるインパクトをアピールし、晴れて認められれば予算を出してくれます。
大学院生は4年間の院生生活の中で、研究成果を論文にまとめ、無事学位審査に通れば、医学博士(Ph.D.)の称号を手にします。
医師の大学院生活の大変さなど、私の体験談を交えて以下の記事で詳しく書いています。
教育
大学病院/医局では教育も重要な仕事の一つと位置付けられています。
大学院生や若手医師も病棟で学生や研修医の指導を行うことがあります。
助教以上などスタッフの先生はレクチャーや授業も行います。
レクチャーや授業は単に教育の場としての位置付けだけでなく、
医局にとっては「当科に興味がありそうな子ややる気がありそうな学生さんはいないかな?」というように若手医師の発掘の場にもなっています。
医局にはどんな役職・肩書きがあるのか?
- 教授
- 准教授
- 講師
- 助教
- 助手
- ※ポスドク(大学院卒業後)の先生の肩書きは医局や病院によって異なる
- 大学院生
- 専門研修医、後期研修医
医局によっては置かれていないポストがあったり、肩書きの呼び名が医局や病院によって異なるなど、多少の違いはあるようですが、概ねこのような感じです。
その他、肩書きの前に「特任」や「病院」という言葉が付くこともあります。
例)病院講師、特任助教など
医局には、色んな人がいます。以下の記事でご紹介しています。
医局長とは?
「医局長」という言葉を聞かれたことがある方もいると思いますが、
医局長とは、医局の運営の実務的なところを行っていく責任者です。
私が所属していた医局では、講師の先生が医局長を務めていました。
業務の割り振り、医局員の関連病院への出向や外勤先の調整などの人事、医局内および外部との各種調整や根回しなど、その業務は多岐にわたります。
医局には何年目で入る人が多いのか
医局に入るタイミングは本当に人それぞれですが、多いのは卒後3-6年目だと思います。
私の周りも多くの先生がそうでした。
初期研修を終えてすぐに入るか、外の病院で1-3年程度臨床をしっかりやってから入局、という人が多かったです。
私も入局を考えている際に先輩方に聞いたのですが、医局で研究をする場合は、実験がハードだったり、何かと体力勝負なところがあるので、入局するのであればあまり遅くない方がいい、という意見の先生が多かったです。
ただ、他大の医局にいたけど諸事情でそこを辞めて、私の所属していた医局に入り直してきた先生もいたりと、人によって事情はそれぞれです。
臨床と研究はどういうバランスで行うのか?大学院生はベッドフリーで研究だけをするのか?
医局には研究室があり、大学医局というと研究のイメージが強い方もいるかもしれません。
では、入局した場合、臨床と研究はどういうバランスで行うのでしょうか?
※このあたりは医局による部分も大きいと思いますので、一つの参考としてお読みいただければ幸いです。
大学院生の場合
私の所属していた医局の場合、
まず、大学院生の1年目は病棟業務でした。
研究は基本的にはしません。
1年の後半に、翌年度以降を見据えて、少し研究に携わる場合もありますが、本格的に研究をするわけではありませんでした。
大学院2年目からはベッドフリー(病棟業務をしないで、研究だけに専念する状態)となり、研究のみを行っていました。
もちろん、研究をしているだけでは生活ができないので、皆平日に週2コマほど外勤に行っていました。
平日週2コマは、医局から「外勤に行っていいよ」と正式に許可が出ていました。
ただ、平日2コマの外勤だけでは経済的に苦しく、土日に個人的に外勤に行っている先生もいました。
ポスドク以上の先生の場合
大学院卒業後はポスドクとして、大学病院での臨床の傍ら、研究を行うことになります。
ポスドクの先生やそれ以上の助教の先生などは、私の所属していた医局では、1年中病棟勤務があるわけではなく、病棟業務がない期間もあり、その期間は研究に専念することができます。
なお、外来がある場合は、病棟業務の有無に関わらず毎週担当します。
その他:研究に専念する人も
上述の通り、多くの先生は臨床と研究をともに行いますが、中には研究のみに専念している先生もいました。研究に専念している先生は、これまでに研究でしっかりと結果を出した先生でした。
医局のポストと支払える人件費には限りがあるため、研究のみに専念できる先生は多くはありません。
大学病院の臨床はどうか?
医局に所属すると、大学病院の臨床と切っても切り離せないことがわかりました。
では、大学病院の臨床業務はどうなのでしょうか?
結論としては、基本的には大変だと思います。
ハードワークになるケースが多いです。
もちろん、地域や科の特性により状況は異なると思いますが、大変なことが多いと思います。
どんな人が医局に入るのか?医局に入る目的は?
医局に入る目的は人それぞれです。
代表的なものを以下に挙げてみます。
- 専門医を取りたい。
- 学位/医学博士を取りたい。
- 研究がしたい。
- 大学病院で臨床がしたい。
- 難症例とか希少性ある疾患など、大学病院でしか経験できない症例を診たい。
- 教授になりたい。アカデミックな活動が好き。
- 尊敬するドクターやお世話になった先生の下で働きたい。
- 開業を見据えて、実力をつけたい。コネが欲しい。博士号を取っておきたい。
- 卒後、大学の関連病院で働きたい。
- 留学したい。
- 何となく。そういうものだと思っている。周りがそうしているから。
上記のような理由や目的で入局する人が多かった印象です。
逆に、大学、医局でなければならない理由がある人以外は、医局に入る必要がないのでは?とも思います。
医局に入った場合、キャリアはどうなる?
キャリアについてはどうでしょうか。
キャリアについても本当に人それぞれと言ってしまえばそれまでなのですが、一般的なパターンをみてみます。
卒後3-6年目で大学院に入局した場合で考えてみます。
一つは、大学院を卒業後、すぐに医局を離れるパターンです。
私の周りでは大学の関連病院にポストを得てそのまま働く場合が多かったですが、医局とは関連ない病院に就職するドクターもいました。
続いて、大学院を卒業後、ポスドクとして大学に残るパターンです。
その場合、以下のようなルートに分かれていきます。
①大学に残って、臨床を行いつつ、研究を続けていく。
②大学院でやってきた研究が一区切りつくまで研究を続ける。区切りがついたら大学を離れる。
①の場合は、やがては助教など医局内のポストを獲得して、しばらくは大学に残ることになります。
希望のある人は、やがて留学することもあるでしょう。
その後どこまで大学に残るかは個人の意思と力量次第でしょう。
②の場合は、これまでやってきた研究を補強するデータを得るために、追加の実験などを行い、区切りがいいところまで研究を行い、それを論文化など形にできたところで大学を去る、といったケースもあります。
他大学出身でも医局には入れるのか?外様は冷遇されるのか?
自分の出身大学以外の医局に入りたいけど、入っていいものか?
入ったはいいものの冷や飯を食わされたりしないのか?
気になる方もいると思いますが、このあたりの事情は医局によるのではないかと思います。
私が所属していた医局の場合は、他大学出身でも全く問題なく、外様だからといって冷遇を受けることはない医局でした。
少なくとも、助教までは実力次第でなれていました。
ただ、聞いた話では、だいたい同じくらいの能力、同じくらいの結果を出した二人がいた場合、他大学出身者よりも自大学出身者を優遇するところもあるようです。
関連病院へ飛ばされたりすることはあるのか?
こちらも気になる点の一つかと思います。
急に大学以外の他の病院に行くことを命じられる、ということは、一般的にはあると思います。
その医局の勢力圏がどこまで及んでいるかにもよりますが、時に遠方の病院へ派遣されることもあるでしょう。
私の大学時代の友人は、入局先の大学から車だと4時間くらいかかる遠方へ行くことを命じられたようです。
私の所属していた医局では関連病院への異動はあまりなかったですが、たまたま関連病院の人事が安定していて、人員を補充したりする必要がなかっただけかと思われます。
家族もいるのに、急に転勤を告げられても困る、という方もいるかと思います。
場合によっては、数ヶ月や半年など、短期間での異動を繰り返さなければならないケースもあるようです。
医局に所属するということは、ある程度は守ってもらえ、雇用先は確保できる代わりに、いつどこで働くのかを決める、という基本的な人権は医局に委ねる、というトレードオフになることもしばしばあるでしょう。
医局にはずっと所属し続けられるのか?
こちらも医局の方針により事情は異なるのでしょうが、私が所属していた医局では、助教には年数制限がありました。
ですので、居たいだけ医局に居られる、というわけではありませんでした。
制限年数が経過しても医局に残る場合は、医局内の別のポストに就かなければなりません。
そのためには、それまでに研究や臨床で結果をしっかりと出している必要があるでしょう。
もしくは、医局を離れ、市中病院など外部で働くことになります。
医局会議について
私の所属していた医局では、1-2ヶ月に1回、医局会議なる会議が行われていました。
医局員は出席しなければなりません。
他の医局でも似たような会議が行われていることと思います。
医局会議の内容は、だいたい以下のようなものが多かったです。
- 臨床や研究をしていく上での連絡事項
- 医局にとって課題を共有し、意見や改善案を募り、議論する。
- 新年度の新しい医局員の採用や人事のこと
- 業務の割り振り、担当者の決定
など
そして、私はこの会議が大嫌いでした。
人生で最も不毛な時間だったと言っても過言ではありません。
いかに不毛であったか、以下にまとめます。
不毛な点①:とにかく長い
会議時間はだいたい1時間超、酷い時は2時間くらいやっていました。
連絡事項などはメールや資料を回して各自読むというスタイルにするなど、適宜工夫すれば時間は大幅に短縮できたであろうに、ダラダラ会議っぽいことをしているのが彼らは好きなようでした。
不毛な点②:毎回制度が改悪されていく
体制やルールを変更していくにあたり、決定権を持つ人間のセンスが宜しくないと、事態は悪化の一途を辿ります。
何か問題が発生したり、システムを修正する度に、医局会議での議論を経て、ことごとく制度が改悪されていきました。
負担が増えるだけで、本質的には何も解決していない、ということが日常茶飯事でした。
これは、多くの先生に共感していただけるあるあるなのではないでしょうか。
不毛な点③:雑用の押し付け合い
医局や大学病院ではとかく不毛な業務が発生しがちです。
~という決まりのために人を出さなければ行けない、みたいなやつです。
「いや、そもそもそれって」と考える人は医局や大学病院には向いていません。
時には休日に出てこなければならないものもありました。
医局としては誰かがやらなければならないので、その担当者決めを医局会議でやっていました。
誰も不毛な業務を押し付けられたくありませんから、皆必死です。
毎回議論が紛糾し、医局はカオスと化していました。
それを見て私は、
こ、これはダメだ…
この組織に未来はない。
と確信しました。
百歩譲って、何らかの担当者を決めるにしても、当事者だけ残るなり、当事者だけでやればいいと思います。
関係ない人の時間を奪わないでくれ、と言いたいです。
私の所属していた医局では、「時間は貴重である」という概念は完全に欠落しているようでした。
これは、いわばレセプター欠損症のようなもので、いくらアゴニストを投与しても意味がありません。
「医局員の時間はすべて医局のものだ」と言わんばかりのジャイアニズムが幅を利かせていました。
他の医局がそうではないことを祈りますが、どうなのでしょう…
ずばり、医局には入ったほうがいいのか?入らなくてもいいのか?
これは、ご自身でよくよく考えてください。
もちろん、医局に所属することによりメリットもあるでしょうが、デメリットもたくさんあります。
「得られるものがあるか?」という観点で考えると、それはあるでしょう。
むしろ、得られるものが全く無い職場などなかなかないでしょう。
それよりも、
「得られるものと失うもののどちらが大きいか?」という観点や、
「医局に入った場合に得られるものと、その他の職場に行った際に得られるものはどちらが大きいか?」といった観点での検討も必要かと思われます。
一番良くないのは、
「何となく」とか、
「周りがそうしているから」とか、
「そういうものだと思っているから」といった理由で医局に入ることです。
医局に入るのであれば、目的を明確にした方がいいと思います。
もちろん、人生何が起こるかわかりませんし、数年後には現在思い描いてプランとは全く違う進路を歩んでいることもあるとは思いますが、無思考で医局に入るのはあまりに代償が大きい、というのが個人的な意見です。
仮に、医局に所属している医師や、医局に所属していない医師の意見を聞いたとしても、人間自分のやっていることを正当化するというバイアスがありますから、客観的な意見というものはなかなか聞きづらいでしょう。
また、意見を聞いた相手の人生とあなたの人生は何もかも違います。
聞いた相手にとっては魅力的に感じられることであっても、あなたにとっては魅力的であるとは限りません。
これまで、医局に入って苦しんでいる先生をたくさん見てきました。
医局は、(全員にとってそうではありませんが)人によっては一度ハマるとなかなか抜け出せない、蟻地獄のようなところという見方もできます。
あなたがその悲しき蟻になってしまわないことを心から祈っております。
医局に入るか入らないかに限らず、人生においてはこうした正解のない問いに直面することは多いでしょう。
こうした問いに対し、しっかり考えたり、自分の心の声を大事にした上で自分なりの答えを出していける人はいいのですが、中にはそういったことが苦手な方もいらっしゃるかもしれません。
特に、忙しいドクターはじっくり考える時間や気力がない場合もあると思いますので、要注意です。
後悔することのないような、そして、自分が納得できるような選択をしていただけたら幸いです。
最後に
本記事では、医局について体験談を混じえ、色々と見てきました。
特に、これから医局・大学病院に入るか検討されているような若い先生の参考になれば嬉しく思います。
あなたの人生を生きるのは、他でもないあなたです。
しっかりと情報を集め、考え、ご自身の人生を切り拓いていっていただければ幸いです。
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